コツコツノート

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中国の茶畑が「抹茶」を名乗る日——シャインマスカットの悪夢は繰り返されるのか

2025年、中国の抹茶生産量は5000トン超で世界最多。価格は日本産の3分の1〜5分の1。「宇治抹茶」という商標を中国企業が出願する事態まで起きている。シャインマスカットとの違いは何か。日本は何を学んだのか。


「抹茶の起源は中国です」という事実

FNNのカメラが捉えた中国の茶畑は、広大で、深く、産業的だった。これは「抹茶ブームの恩恵を受けようとする後発参入者」の姿ではない。実は抹茶の起源は中国にある。

抹茶に使われる茶葉を石臼で挽く技術は中国・宋代に生まれ、その文化が日本に伝わった。しかし明代の中国でこの文化が廃れ、日本で独自に磨き上げられた。600年以上にわたる日本独自の技術的蓄積——遮光栽培(覆下栽培)、蒸し製法、石臼による微細な粉砕技術——が「抹茶」を世界ブランドに育てた。

その文化を「取り戻そうとしている」のが今の中国だ、という読み方もできる。


中国の抹茶生産の現実——数字で見る圧倒的な規模

中国の抹茶生産は拡大が続いており、2025年の国内生産は5000トンを超え、世界最多を独走する見通しだ。消費量の増加に伴って製造技術水準も向上し、抹茶の受注量は2024〜25年になって際立って伸びている。

浙江省のある有機食品会社では抹茶製品を主に欧州と米国に出荷し、2025年1〜8月の海外受注は前年同期比で2〜3倍に増加。杭州市に拠点を置く別のメーカーでは、日産能力を従来の平均1トンから現在の平均3トンにまで増強した。

一方、日本側は価格と量で厳しい状況に置かれている。中国はすでに世界供給量の約半分を担い、価格は日本産の3分の1〜5分の1だ。

比較軸 日本 中国
主な用途 茶道用・高級品 加工食品・ラテ・菓子向け
価格帯 高価格 3分の1〜5分の1
生産量(2025年) 追いつかない需要超過 5000トン超・世界最多
技術レベル 最高品質の石臼製法 中低ランクは工業的量産
ブランド力 「抹茶=日本」という世界認知 急速に向上中

日本側は猛暑・原料碾茶・挽砕能力の制約により供給が逼迫し、高値基調が続いている。輸出は米国偏重で感応度が高い一方、中国全体の平均輸出単価は下落し、価格競争力が上昇。米国向け輸入も増加し、外食・加工の"量の世界"で影響力が拡大している。


「宇治抹茶」を中国企業が商標登録しようとしている

単なる量産の話ではなく、ブランドそのものへの侵食が始まっている。

中国で宇治抹茶の模倣品が多く出始め、従来日本が販売していた東南アジアをはじめ、海外でも販売されるようになり大きな実害が出始めている。さらに中国で「宇治」の商標登録が茶を含む第30類の項目で中国企業によって出願され、宇治茶の使用にも制限が出る事態になりかねないとの懸念も出ている。

「宇治」という名前を中国企業が商標登録すれば、日本の宇治茶を「宇治茶」と表示して海外で売ることが法的に制限される可能性がある。シャインマスカットの模倣品が「晴王」のロゴそっくりのパッケージで販売されたのと同じ構造が、茶の世界でも起きている。

この事態を受け、日本茶業中央会が「日本茶」のナショナルGI(地理的表示)登録を農林水産省に申請した。GI保護制度は長年育まれてきた品種や社会的評価などの特性を有する産品の名称を地域の知的財産として保護するもので、登録されれば日本酒に次ぐナショナルGIの2例目となる。


シャインマスカットとの比較——同じ道を歩むのか

「シャインマスカットで失敗したのと同じことが起きている」という指摘は、データで見るとかなり正確だ。

まず経緯を整理する。シャインマスカットは農研機構が33年以上かけて開発した品種だが、2016年ごろに苗が中国や韓国に持ち出された。当時、海外に持ち出すことを止める規制がなく、農林水産省の試算では損失額が少なくとも年100億円に上る。

中国の栽培面積は2020年推定で5万3000ヘクタールと日本(2018年で1625ヘクタール)の32倍に達した。香港では「晴王」のロゴがプリントされた中国産シャインマスカットが、本物の3分の1から5分の1の価格で売られていた。

抹茶との共通点と相違点を比較すると以下の通りだ。

比較軸 シャインマスカット 抹茶
日本の競争優位の源泉 品種(種苗) 製法技術・文化ブランド
中国への流出経路 種苗の物理的持ち出し 技術習得・設備投資
模倣の形態 産地偽装(日本産と偽る) 「宇治抹茶」商標出願・類似品販売
日本の損失形態 年100億円超(農水省試算) 市場シェアの侵食・輸出機会の喪失
日本の対応 改正種苗法(2021年施行) 日本茶GI申請(2025年10月〜)

抹茶がシャインマスカットと決定的に違う点

「同じ道をたどる」という見立ては半分正しく、半分は見落としがある。抹茶にはシャインマスカットとは根本的に異なる強みがある。

**技術は流出しにくい。**シャインマスカットは「種苗」という物理的なものが流出した。抹茶の本質的な品質は、数百年かけて磨き上げた栽培技術(覆下栽培の期間・遮光素材・土壌管理)と石臼による粉砕の精度にある。業界関係者によれば、抹茶の口当たりを滑らかで上品にするには原料の品質が高いことに加え、粉砕の細かさ(研磨度)が重要な評価指標で、浙江省内では最高品質の抹茶加工が可能になってきたとされるが、宇治・西尾・八女といった産地が持つ土壌・気候・職人技の組み合わせは容易に複製できない。

**「価値で選ばれる層」は存在し続ける。**需要は二層化しており、ラテパウダー等の大量・低中価格帯は価格の強い中国に分があるが、点前・上級グレードは品質と来歴で日本が優位を維持している。根本は「価格で選ばれる用途」と「価値で選ばれる用途」の併存にある。

**しかし市場の「量」は中国が取る。**碾茶でない粉末茶が「抹茶」として下流に流れ始めており、輸出される「抹茶粉末」の量が実際の碾茶生産量を上回るのではないかとの見方が示された。コンビニの抹茶アイス、カフェの抹茶ラテ、菓子メーカーの抹茶原料——この「量の世界」では中国産がすでに主流だ。


「抹茶ブームで日本の茶業者が潰れている」という逆説

帝国データバンクによると、製茶業の廃業数は2025年に過去最多となった。「抹茶人気」が逆風になっているという。これは一見矛盾するが、仕組みはこうだ。

煎茶から抹茶(碾茶)へ工場を転換するには小規模施設でも約1億円のコストがかかる。抹茶ブームを「バブルかもしれない」と判断し、設備転換をしなかった煎茶農家は、逆に市場から取り残されていく。設備転換してもコスト回収できるかどうかは、中国産との価格競争次第だ。世界的な抹茶ブームの恩恵が、最も本来的な供給者であるはずの日本の中小茶業者に届いていない構造的な問題がある。


独自の視点:日本が学んだこと、まだ学んでいないこと

シャインマスカットから学んだことは確かにある。改正種苗法(2021年施行)により、日本の育成者権が強化され、海外持ち出しへの規制が設けられた。抹茶でも日本茶のナショナルGI申請が進んでおり、登録されれば海外での偽物・冒認商標への対抗手段ができる。

しかし「まだ学んでいないこと」もある。ブランド保護の制度整備は「後手」に回ってきたことだ。2025年の日本茶輸出額は前年から倍増の721億円と過去最高を記録した今こそ、GI登録・商標保護・海外での法的対抗措置の整備を加速する絶好の機会だ。売れているうちにブランドを守る——これはシャインマスカットが教えた最大の教訓だ。

「抹茶は同じ道をたどるか」という問いへの答えは——「量の市場では部分的にすでにたどっている。高品質・文化的価値の市場では、日本がブランド保護に成功すれば異なる道を歩める。ただしそれは自動的に実現するものではなく、今すぐ制度・ブランド・産業の三つを同時に守る動きが必要だ」だ。


引用・参考資料

  • FNNプライムオンライン「中国で急拡大する抹茶生産の現場——世界的な"抹茶ブーム"をビジネスチャンスに」(Yahoo!ニュース, 2026年6月)
  • 亜州ビジネス「需要急拡大の『抹茶』、2025年中国生産5000トン超へ」(2025年)
  • 抹茶タイムズ「抹茶が中国に乗っ取られる?データで読む勢力図と実務リスク」(2026年3月)
  • 抹茶タイムズ「世界市場は2025年時点で約24.6億ドル規模。2027年には45億ドル規模への倍増が見込まれる」(2026年4月)
  • 中華IT最新事情「世界的ブームとなった日本の抹茶。加工用として輸出する戦略を取る中国」(2026年4月)
  • 食品新聞「日本茶、GI登録へ。背景に海外での宇治抹茶の商取引を阻む中国産模倣品」(Yahoo!ニュース, 2026年5月)
  • 日本食糧新聞「パッケージもそっくり…宇治抹茶の中国産模倣品が海外にも」(2023年)
  • ソーシャス「世界的な抹茶ブームが日本茶産業を破壊する——T4IS2026 Strategy Dialogue」(2026年4月)
  • 農林中金総合研究所「抹茶ブームと煎茶高騰——転換期にある茶の未来を考える」(2026年5月)
  • JBpress「シャインマスカットの損失は少なくとも年100億円」(2025年11月)
  • 日本農業新聞「岡山のシャインマスカット『晴王』香港で産地偽装」(2026年3月)
  • JCast「超高級果物を韓国にパクられ放題の日本」(2021年)