東大2025年卒の就職先上位20社のうち7社がコンサル。その一方でコンサル会社の倒産は過去最多ペース。「下働きをAIに奪われた若手はどこで鍛えられるのか」という問いに、業界は答えを持っていない。
「人気絶頂」と「倒産過去最多」が同時に起きている
矛盾しているように見えるが、両方の事実が同時に進行している。
東京大学の2025年卒の主な就職先ランキングでは、上位20社中7社を大手コンサルティング企業が占めた。マッキンゼー、BCG、デロイト、アクセンチュアといった外資系・大手コンサルへの就職人気は今や法律事務所や大手銀行を凌ぐ。
一方、帝国データバンクによると、2026年1〜5月に発生した「経営コンサルティング業者」の倒産・休廃業・解散は242件で、2025年通年の568件を上回るペースで推移しており、過去最多を更新する勢いだ。
学生から見た「コンサル」と、実態の「コンサル業界」の間に、大きな断層がある。学生が目指しているのは上位数社の大手ファームであり、倒産が急増しているのは補助金バブルに乗った零細業者が大半だ。しかしこの「二層構造」の中に、今後数年で大手コンサルの構造問題として浮上するテーマが隠れている。それがAIによる「下働き消滅」問題だ。
コンサルの「ピラミッド」が何十年も安定してきた理由
コンサルティング業界は何十年もの間、安定した「ピラミッド型」モデルで運営されてきた。このモデルでは、幅広い底辺を成すジュニアコンサルタントがリサーチ、モデリング、分析を担当する。そして、戦略を導きクライアントとの関係を管理する少数の上級リーダーを支える、という構造だ。
このピラミッド構造はコンサルティング業界の収益モデルであり、若手のキャリア形成の道筋でもあった。
「下働き」の意味は単純ではない。ジュニアコンサルタントがリサーチや資料作成、財務モデリングをこなす作業は、一見単純な下積みに見えるが、実際には「業界・クライアントの実態を身体で覚える」「構造化された思考を実際の業務で反復練習する」という不可欠なキャリア形成の場だった。「3年間の下働きを経て初めてクライアントに向き合える」という業界の不文律は、この「鍛えの場」としての価値に基づいている。
AIがピラミッドの底辺を崩す
生成AIの台頭によって、この底辺部分が急速に侵食されている。
AIがコンサルティングに及ぼす影響の議論は両極端に揺れがちだが、ハーバード・ビジネス・レビューが2026年4月に掲載した論考はこう指摘する——コンサルティングは消えゆこうとしているわけではない。根本から再構築されつつあるのだ。
同論考が提唱するのが「オベリスク型」への転換だ。ピラミッドが底辺(ジュニア)から頂点(シニア)へと広がる構造なのに対し、オベリスクは底辺を持たない——つまり少人数のシニアコンサルタントとAIが直接クライアントに向き合う形だ。リサーチ・モデリング・資料作成はAIが担い、人間は「精査」と「判断」と「関係構築」だけを担う。
これは実際に現場で起きていることと一致する。外資系コンサルで働く現役コンサルタントはこう証言する——「業務が楽になったかと言われれば、楽になりましたよ。でも、業務負荷は増えましたね。今まではリサーチに没頭して、頭を実質休ませている時間というものがありました。それがゴッソリAIに奪われて、"情報の精査"と"決断"だけを業務の中で繰り返し迫られる。精査や決断って、脳のリソースを食うんですよ。どっと疲れる。前より疲れを感じることが増えました」。
「下働きが消えた」時、若手は何で鍛えられるのか
ここに本質的なパラドックスがある。
AIがジュニアコンサルタントの仕事を奪うことで、企業は同じ仕事をより少ない人数でできるようになる。コスト効率の観点では理想的だ。しかし「ジュニアコンサルタントが下働きをしながら鍛えられる」というキャリア形成の場が消えると、10年後に「精査と判断ができるシニアコンサルタント」をどうやって育てるのかという問いが生まれる。
Anthropicのダリオ・アモデイCEOは、今後1〜5年以内に新卒レベルのホワイトカラー職が半数消滅し、失業率が20%まで上昇する可能性があると警告した。特にテクノロジー、金融、法律、コンサルティングなどの分野が大きな影響を受けるとされる。
アメリカではすでにコンサルティングを含む分野での人員削減が加速している。Accentureは11,000人超を削減し、Amazonはコーポレート部門で累計30,000人規模を削減した。これらの削減の特徴は「ジュニア層・定型業務担当層から始まっている」という点だ。
日本では「解雇」という形ではなく「仕事の中身が静かに変わる」形で同じことが起きている。2025年以降に早期退職を募集した企業は31社・対象者10,108人と、すでに前年を上回るペースで増加している。
「コンサルに就職したい東大生」が知るべきこと
では東大生を中心とした「コンサル人気」は何を意味するのか。3つの視点で整理する。
視点①:今のコンサル人気は「過渡期の高値」かもしれない
現在のコンサル人気は、企業のDX需要・AI導入需要という「一時的なブーム」に一部依存している。今後AIが普及しきった段階で「AIを使って自社で解決できる」という企業が増えれば、外部コンサルタントへの需要は構造的に縮小する可能性がある。「今人気だから安全」という判断は、数年単位では通用しないかもしれない。
視点②:大手コンサル入社後のキャリア形成が変わる
かつては「ジュニア時代の下働きで鍛えられ、3〜5年でプロとして通用する」というルートがあった。しかしAIが下働きを代替した環境では、新卒コンサルタントが鍛えられる機会の設計そのものが変わる。入社後に何で鍛えられるのか——ここを自分で設計できるかどうかが、今後のコンサルタントとしての成長を左右する。
視点③:「AIを使える人材」と「AIに使われる人材」の分岐
AIが定型業務を代替した世界では、コンサルタントに求められるスキルが「情報収集・分析の速さ」から「AIの出力を批判的に評価し、クライアントの文脈に合わせて判断を下す力」に移行する。このスキルは下働きによって自動的に身につくものではなく、意識的に鍛える必要がある。「東大卒でコンサルに入れば安泰」という時代は終わり、入社後の5年間で何を鍛えるかが本質的な問いになる。
独自の視点:「ピラミッドの崩壊」は若手だけの問題ではない
「コンサルのピラミッドが崩れ、若手のキャリア形成が危機に瀕している」という議論は正しいが、それはコインの片面に過ぎない。
もう片面は「シニアコンサルタントの価値の再定義」だ。AIがリサーチとモデリングを担う世界では、シニアコンサルタントの価値は「知識量」ではなく「経験に基づく判断力」と「クライアントとの信頼関係」に集中する。知識だけでシニアになった人材は、AIとの差別化が難しくなる。
さらに深刻なのは「中間層の消失」だ。オベリスク型の組織では、ジュニアとシニアの間の「経験を積んで成長する中間層」が育たない構造になる。10年後にシニアコンサルタントを補充すべき人材プールが枯渇するというリスクが、業界全体で進行していることに気づいている人は少ない。
コンサル業界が今直面しているのは、「AIで効率化して今は儲かる」という短期的な恩恵と、「鍛える場がなくなって将来の人材が育たない」という長期的なリスクのトレードオフだ。このトレードオフを直視し、「AIと人間の役割分担をどう設計するか」という問いに答えられるかどうかが、コンサルティング業界の10年後を決める。
引用・参考資料
- ABEMA Prime「東大生が殺到するコンサル業界、AIで若手のキャリア形成が危機」(Yahoo!ニュース, 2026年6月)
- ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー「AIによってコンサルティング企業はどう変わるのか ピラミッドモデルからの脱却」(2026年4月)
- 東洋経済オンライン「AI価格破壊で大手コンサル隆盛の時代も、"優秀な新卒"が不要となる残酷なパラドックス」(2026年6月)
- ワンキャリア転職「2026年は"アンチAI"の時代になる——外資系コンサルの証言」(2026年1月)
- 株式会社カンマン「2026年版・日本企業における生成AIリストラの実態と3つの生存戦略」(2026年2月)
- ビジネス+IT「AI進化でオフィス系"新卒"の50%が消失、若者は"もう不要"なのか」(2025年)
- 外資就活ネクスト「コンサルはAIによってなくなる?仕事を代替されないためのキャリア戦略」(2026年)